[SS]女子高生のことをJKって呼ぶな
――魔王城・黒水晶の大広間――
剣と剣が打ち合い、火花が散る。
オレは膝をつき、呼吸を整えた。
対峙するのは、深紅の外套をまとう大魔王、アポカリプス=グレイヴ。
「ククク……勇者よ。ここまでよく辿り着いたものだ。」
闇が渦巻き、大魔王の大鎌が月光を受けて鈍く光る。
(まずい、体力はもう底だ…… )
魔王が高らかに宣言する。
「お前を斬り捨てた後――
お前の故郷もろとも焼き尽くしてやろう。
まずは国王、そして臣下ども……老人、JK、誰一人生かしはしまい!」
「くっ……そんなこと、させるか……!」
( え、今 JK? じぇーけーって言った? )
魔王はまだ続ける。
「虚ろな瞳で炎を映し、逃げ惑う者どもを想像せよ。
その絶望こそ余の歓喜――!」
( “娘”とか“若人”とかじゃないんだ……。 女子高生のことJKって呼ぶんだ……。)
オレはよろめきつつも剣を構え直した。
足が震えるのは恐怖か、JK呼びが気になるせいか。
「勇者よ、最後に遺言はあるか?」
「……あるさ。世界は……守られるべきだ……その中には、じょ、女子高生も……!」
魔王の眉がわずかに動く。
「ほう、この状況でも他の者を庇うか。
貴様の“正義”とやらも捨てたものではなさそうだ――よかろう、その正義もろとも葬ってくれる!」
( 無反応……! 特に気にしている様子もなかったっ……!)
魔王が鎌を振り上げる。
漆黒の大鎌が天井を裂き、こちらを目掛けて降る――
「おおおおおっ!」
渾身の突き。
オレの剣先が大魔王の大鎌をくぐりぬけ、胸甲を穿つ。紫黒の血しぶきが散った。
魔王は膝をつき、呻く。
オレはすかさずトドメをさそうと、再び剣を振りおろす。
「ぐっ……この余が……!しかしまだ……!じぇ」
黒水晶の床に光が走り、魔王の巨躯が崩れ落ちていく。外套が灰になって風に散る。
オレはただ、その灰が見えなくなるまで、立ち尽くすことしかできなかった。
おしまい。