六人の嘘つきな大学生 感想

#感想

※ネタバレ注意!

久しぶりに積んでいた本を崩そうと思い、手に取ったのが浅倉秋成さんの「六人の嘘つきな大学生」だった。

成長著しいIT企業〈スピラリンクス〉の最終面接に残った六人。その場で六通の封筒が見つかり、中には六人それぞれの“罪”が書かれていた。

という導入だ。
結論から言うと、とても面白かった。就活をミステリに据えるセンスが光っていた。最初は「題材が奇抜なだけかな?」と警戒していたが、読み終えて納得。就活だからこそ浮かび上がる“表と裏”の関係を描きたかったのだと腑に落ちた。

良かったところ

ストーリーは映画の脚本のようにすっきりまとまっている。前半で最終面接を一気に走り切り、「あ、ここでピークを過ぎたかな」と油断したところで シマ編 が始まる。読者の予想を裏切る再加速が痛快だ。
そして要所に挟まれる面接後のインタビュー。読み流していた何気ない会話が、後半では本筋そのものになる。まんまとひっかけに引っかかり、「これが伏せられた第二幕だったのか!」と膝を打った。
ラスト三十ページの畳みかけも秀逸。封筒とZIPパスワードの謎が一気にひっくり返り、「見えているのは人の一面だけ」というテーマがストンと胸に落ちた。

気になったところ

いくつかのヒントが露骨すぎて、先が読めてしまう点は惜しい。たとえばシマの足の事情。序盤で「歩調を合わせる」→「ほかの学生にもゆっくり歩こうと促す」→「シマが恐縮してお礼」と続けば、もう足が悪いことはバレバレだ。
また、犯人役に波多野が選ばれた理由がやや薄い。作中で彼の決定的な悪事が示されないため、「なぜ彼だったのか」が最後までモヤッと残った。
妹の「“優秀な人”投票は“好きな人”投票みたいなもの」という発言にシマが妙に感心する場面も引っかかった。皮肉なのか、本気で核心を突いたのか、読み取りきれず少し消化不良。

それでも薦めたい

細かい不満はあっても、就活という日常的な舞台がミステリとしてここまで化けることに拍手を送りたい。テンポよく進む会話、若さゆえの拙さと計算高さが交差する心理戦、そして最後に示される「人は誰しも多面体」というメッセージ。ページをめくる手が止まらなかった。
浅倉秋成さんはまだ若手とのこと。次作も追いかけてみようと思う。

お疲れさまでした。